ポルトアレグレから車で1時間ほど移動しイボチという地域に訪れました。このイボチという地域は53年前に日本人が葉野菜や花などの栽培のために移住してきた土地で、当初は120家族ほどが暮らしていたそうです。
この地域には今でも日系1世の方が6,70人ほど暮らしてらっしゃいます。このような移住地では1世の方は家では日本語しか使わず、医療機関で正しく症状を伝えて医師からの説明を正しく理解できるほどポルトガル語を使うことができません。このような方に日本語で診察できる機会を提供することがいかに有難いかということを伝えてくださいとイボチに住んでいる方がおっしゃっておりました。

診察を行った公民館と巡回診療バス
イボチ公民館

今回はリオグランデドスル連邦大学内科主任教授の森口エミリオ秀幸先生が週末に行ってらっしゃる日系移民のための巡回診療に帯同させていただきました。
活動地への移動や診察には、日本政府から寄贈された診療バスが使われます。バスの中には基本的な診療に必要なものが揃っており、このバスで毎年3500kmほど移動します。

イボチにある日系人の方々の公民館に機材を運び込み診療を行いました。こちらの公民館に到着すると中では日本語が飛び交っており、まるで日本の田舎に来たかのような錯覚を覚えました。イボチでJICAボランティアとして日本語教師をしている方など、地元の方々のご協力のもと診察が始まります。

診療を受ける人それぞれにUSBファイルが渡され、こちらに計測した血圧、尿検査、腹囲、心電図などのデータが記入され、最後に森口先生の診察が行われます。血液検査は予め近くの検査施設で計測済みで、患者さんはデータを持ってきています。このようにして集められたデータを森口先生が毎年保管しており、経時的な変化も見ることができます。

心電図検査を行う様子
心電図

実際に診療に同席させていただきました。本来ならば都市部の病院に呼ばれるはずなのに、呼ばれることなく病院に行けない方もいらっしゃいました。このような方は既に不要な薬剤を服用し続けていたり、用量の調整が不適切なまま使用していることもあり、適切な処方箋に更新する必要があります。

巡廻バス内で診療を行う様子
バス内

尿検査では24時間蓄尿したものを持ってきてもらい、塩分摂取量を測ります。シュラスコ文化のイボチではどうしても塩分摂取量が高くなりがちですが、森口先生の生活指導によって年々摂取量は減ってきているそうです。

森口先生は費用が足りないときにはご自身のお金を使って診療されていたこともあり、平日は大学病院の内科主任としての業務が忙しい中でこのような活動を続けていることに大変感銘を受けました。
義理の祖父である細江静男先生(慶應義塾大学医学部8回生)からお父様である森口幸雄先生(慶應義塾大学27回生)、そして森口秀幸先生へと受け継がれている巡回診療に実際に参加させていただき、医療の行き届かない地域の方々への予防医学の啓蒙に対する熱い思いを学ばせていただきました。

地元の方々も日本の学生が来たということで温かくお出迎え下さりました。貴重な経験を提供して下さった森口秀幸先生とイボチの方々に改めて感謝申し上げます。